年の瀬が近づくと、ふと頭をよぎるこの疑問。毎年当たり前に囲んできた華やかな祝い膳に、今年は手が伸びない。そんな自分に戸惑いを覚えたり、なんとなくモヤモヤしたりする方も多いのではないでしょうか。
実際、「喪中」とは家族や近しい人が亡くなり、悲しみと向き合いながら慎み深く新しい一年を迎える期間のことです。この喪中の在り方、そして新年の食卓をどう整えるか。世の中の常識やしきたりに従うべきか、自分の心の声を大事にするべきか。そんな悩みや迷いに寄り添いながら、この記事では「喪中のおせち」をめぐる背景や、選択のヒントをお届けしたいと思います。
まず、喪中にはおせち料理を避けるのが“普通”だと、どこかで聞いたことがある方も多いでしょう。実際、おせち料理は新年を祝うためのものであり、色とりどりの食材には「今年も幸せでありますように」「家族が健やかでありますように」という願いが込められています。紅白のかまぼこ、数の子、黒豆、海老…。そのひとつひとつに縁起の良い意味があり、食卓も気分も華やぎます。
でも、喪中は祝いごとを控える期間。おめでたい料理や飾りつけは控えめに、静かに過ごすのが一般的です。故人を偲び、身を慎む──そんな気持ちの表れとして、家族で「おせちは今年はお休みしよう」と決めるご家庭も少なくありません。
ここで一つ、立ち止まって考えてみたいのが、「喪中=絶対におせち禁止」ではない、ということ。実は宗教や宗派、あるいは家族の価値観によって、その解釈や対応は大きく異なるのです。
たとえば、キリスト教や浄土真宗では、いわゆる「喪中」という概念が存在しません。そのため、年末年始の過ごし方も他の宗教や宗派とは違ってきます。おせち料理を食べても、「不謹慎だ」と咎められることはほぼないでしょう。むしろ「亡くなった方が悲しまないように、普段通り明るく新年を迎える」という考え方もあるほどです。
また、神道や多くの仏教宗派では、喪中の過ごし方は細かく定められていますが、「これだけは絶対ダメ!」という“決まり”が存在するわけではありません。実際、「お祝いの食材だけ避けて、控えめなおせちを用意する」「家族だけで静かに食事をする」「普段通りの食卓を囲む」といった柔軟なケースも見受けられます。
たとえば、「ふせち料理」と呼ばれる精進料理をベースにしたお正月料理があります。これは本来のおせちの華やかな雰囲気を避け、肉や魚、紅白の食材、縁起物の具材を控えて作るもの。食材は大豆や野菜中心、見た目も飾り付けもシンプルに。「それでもやっぱりお正月を感じたい」「家族の心が少しでも和むなら」と、穏やかな気持ちでいただくご家庭も多いようです。
ふと思い出すのは、祖父が亡くなった年のお正月。母は台所で「今年はちょっと静かなお正月にしようね」とつぶやきながら、でも私たちの好きな煮物やだし巻き卵だけはそっと用意してくれました。華やかな重箱は出さず、普段使いの器に盛り付けた控えめな料理たち。それでも、家族で囲む温かな食卓は、「お正月」をしっかり感じさせてくれました。
一方で、「おせちを食べると故人が悲しむ」「近所の目が気になる」と感じる場合は、無理におせち料理を用意しなくても構いません。むしろ、無理に“例年通り”を演じるより、心に素直に寄り添う時間にすることが、喪中という期間の本質なのかもしれません。
そして、年越しそばや雑煮についても触れておきましょう。年越しそばは「細く長く生きるように」との願いが込められているため、喪中であっても食べることができます。また、雑煮も「お祝い」としてではなく、普段の食事の一部としていただく場合は問題ありません。ただし、餅や飾りつけなど、縁起を意識したものは控えめにするのが一般的です。
現代では家族構成や価値観の多様化が進み、「こうでなければならない」という決まりごとに縛られなくてもいい時代です。インターネットやSNSが普及し、さまざまな考え方や過ごし方に触れられるようになった今、自分や家族に合った方法を選ぶことが大切になっています。
例えば、最近では「喪中でもおせちを作る派」と「作らない派」で意見が分かれることもしばしば。どちらが正しいということはありません。「自分にとって、家族にとって、一番穏やかに新年を迎えられる方法は何か」。そんな問いを、自分自身や家族と一緒に考えてみることが大切です。
また、近所や親戚、職場の方との関係性にも気を配りたいところ。心配なら「今年は喪中なので、控えめなお正月にしています」と一言伝えておくと、トラブルの種を避けられます。「あの家はなんでおせちを用意しなかったのかしら」なんて噂を立てられたら悲しいですし、逆に「故人のことを想って、静かに過ごしているのね」と理解してもらえたら心も軽くなります。
最近は「喪中のお正月をどう過ごすか」という特集がテレビや雑誌で組まれることも増え、さまざまなケースや体験談に触れられる機会も多くなりました。そうした情報を参考にしながら、自分なりの「正解」を見つけていけたらいいですね。
人の心には正解がひとつしかない、なんてことはありません。特に喪中という特別な時間は、人生の節目を迎えた家族や、残された私たちの心に寄り添うもの。派手なお祝いはしない。けれども、「新しい一年を、少しずつでも歩き出そう」という小さな前向きさを、静かに、でも確かに感じさせてくれる──そんな食卓であれば十分なのではないでしょうか。
もしあなたが今年、喪中でお正月を迎えることになったなら。どうか自分の気持ちや、家族の心にそっと耳を澄ませてみてください。周囲の声や世間の常識に流されすぎず、「これでいいんだ」と思える過ごし方を見つけてみてください。
そして何より、大切なのは故人を偲びつつ、今ここにいる自分や家族を大切にすること。「今年は控えめに」「でも好きなものは食べたい」「ちょっと寂しいけど、みんなで食卓を囲もう」──そんな気持ちのひとつひとつを大事に、新しい一年の一歩を踏み出してみませんか。
喪中におせち料理を食べるかどうか。その答えは、きっとあなたの心の中にあります。自分らしいお正月を、穏やかに迎えられるよう、この記事が少しでもお役に立てたなら嬉しいです。
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